島袋道浩「中之島の水辺の使い方」

ラボカフェスペシャル featuring クリエイティブ・アイランド・ラボ 中之島 06
中之島リサーチプログラム:島袋道浩「中之島の水辺の使い方」

日時:2019年1月22日[火] 19:00ー21:00 
会場:アートエリアB1
定員:30名程度(当日先着順・入退場自由・参加無料)

ゲスト:
島袋道浩(アーティスト)
岩田尚樹(NPO法人もうひとつの旅クラブ ご来光カフェ 担当理事)
大江幸路(大阪シティクルーズ推進協議会 事務局長)
出﨑栄三(北浜水辺協議会 理事長)
吉田公司(一本松海運株式会社営業部 課長)
カフェマスター:
木ノ下智恵子(大阪大学共創機構社学共創本部 准教授/アートエリアB1運営委員)


中之島の水辺の使い方


水都大阪を象徴する、二つの川に挟まれた中州である中之島では、船や水辺を活用した様々な試みが活発に行われています。

そんな中之島を、これまで国内外の美術館や芸術祭で、海や川、水にまつわる作品を多数発表してきたアーティスト・島袋道浩さんが巡り、自身の作品に結びつけたアイデアを考えています。

島袋さんのリサーチの一貫として行ったこのトークでは、中之島の水辺の活動に携わってこられた様々な立場の方々をゲストに迎え、その活動についてお話を聞きました。

冒頭に島袋さんによる、これまで世界各地で行ってきた水辺に関する作品のプレゼンテーションを行った後、今回のゲスト四者四様の水辺の活動について語り合いました。


北浜テラス―対岸の中之島を臨む川床


おしゃれなカフェやレストランが集まり、観光客に大人気のスポット「北浜テラス」を管理する北浜水辺協議会。その理事長で、北浜の川辺沿いのビルでオーダー服のテーラーを営む出﨑さんは、「北浜テラス」の始まりから関わってきました。

出﨑 中之島の南側、土佐堀川に面し、対岸に中之島公園を臨む「北浜テラス」は、川の桟敷席です。淀屋橋から葭屋橋まで包括的にテラスを出す権利を大阪府から得て、そのテラスによってこのエリアを活性化させましょうというものです。

 川沿いのビルオーナーやカフェやレストランに声をかけて、大阪府の土地の上にテラスを出すので、その分の土地代を協議会が各事業者から集めて大阪府さんに支払うという、占用者として公的機関と同じように管理をする、苦労が多い協議会です。

 明治40年ごろの北浜テラス周辺の写真も持ってきました。いま中之島公園のある場所は、当時はまだ州しかありませんでした。現在私のテーラーがある場所には、当時「淡路屋」さんという料理旅館があって、当時は旦那衆が浜小舟で淡路屋にやって来たり、物資も小舟でやりとりしていました。今は堤防ができて物資も人も水辺から直接あがってくることはできなくなったので、私たちは昔の情景を取り戻したい、世界に誇れる水辺の風景をつくりたい、という思いを持ってやっています。

 水辺協議会の活動は2007年ごろからですが、活動を始めた翌年以降は中之島新線もできて、きれいな公園になりました。私達がその一助になったのかなと思っております。


大阪水上バス―歴史や演劇、食を取り入れたクルーズツアー


今では、大阪の水辺の風景の一部ともなってきた川を走る定期観光船「アクアライナー」でおなじみの大阪水上バスは、ボート型の船「アクアmini」や、明治に淀川を往来した川蒸気船をイメージした「ひまわり」で個性的なクルーズ企画をしてきました。

中田 大阪水上バスでは、今年で36年目を迎える「アクアライナー」のほかに、「アクアmini」というボートタイプの船もあります。大阪水上バスの船員は、海外で大きな船を運転する訓練をしてきたような人ばかりですが、この小さな船は、私のような営業担当が運転します。小回りがきくので、この船で色々な水辺の活用を試みています。

 例えば、「キテミテ中之島(主催:京阪ホールディングス株式会社、中之島高速鉄道株式会社)」というイベントの一つとして「忍者キッズクルーズ」を運航しました。これは、昔、造幣局があった場所に藤堂高虎という大名の屋敷があり、堂島の米市場の相場を伊賀の方に伝える忍者もいたのではないか、という発想にちなんだイベントです。劇団員扮する忍者とともに子どもたちが、街にある忍者文字を船から探したり手裏剣で敵を倒したりしながら、ゴールを目指すというものです。5年前には、子供鉅人という劇団がアクアminiを使って、船で移動しながら街全体を舞台にした演劇作品を上演しました。

 また、「ひまわり」では昨年、淀川浪漫紀行という、かつての淀川舟運をイメージして、八軒家浜から枚方まで3時間、淀川の語り部さんが水辺のことを語りながらクルーズしました。淀川産の天然ウナギを使うなどのお食事付きのツアーです。

 このように、歴史や、演劇、食などの切り口で様々なクルーズの運航をしています。


一本松海運―ゲリラライブからアート船まで


落語家が大阪を案内する「なにわ探検クルーズ」や中之島の北側の堂島川を運航する「中之島リバークルーズ」など、黄色い旅客船が目を引く一本松海運は、アーティストとのコラボレーションなどのユニークな試みを行っています。

吉田 一本松海運は、1915年創業の船会社です。僕が二十数年前に入ったころの本業は、海底電力ケーブルを敷設する事業がメインでした。

 当時はまだ日本になかった海底ケーブル敷設船をイタリアからチャーターしてきて、電力ケーブルを海に流して埋めていくというものです。3年分社員を養っていけるような大きな事業だったそうですが、海外の会社が参入しはじめ競争が激しくなったため、次なる事業として旅客船業に力を入れ始めました。

 この頃は、いわゆるポンポン船を使った、バーベキュー船の営業をやっていました。ただ、バーベキュー船を貸し切るという会社も少なく、僕自身は船酔いがひどくてあまり船に乗りたくなかった(笑)。

そんな時に、ミュージシャンが路上でゲリラライブをして道路交通法違反で捕まったというニュースを見て、これ川でできるんじゃないかと。河川法は明治時代から変わってないので、意外となんでもできるんです。大阪の川は人が集まる道頓堀もあるので、船でのゲリラライブを始めました。

 これまで桑田佳祐さんやDA PUMP、コブクロのライブのほか、トム・クルーズが乗船したりなど映画のプロモーションにも使われています。船の何が良いかというと、お客さんが目の前で見られるんですね、また、何かあってもすぐ逃げられるので警備がしやすく、費用的にも警備員の数を抑えられ、かつPR効果が大きいんです。

 別のプロジェクトでは、「水都大阪2009」という大阪の川辺文化の転換期になった事業が行われた時に、アートプロデューサーの木ノ下智恵子さんとともにヤノベケンジプロジェクトのラッキードラゴンの船を運航しました。船の上のドラゴンが八軒屋浜で火を吹いたり、道頓堀で水を吹いたりします。これを普通の川で走らせるのは本当に大変でした。運輸局に申請をする際に、船も車と同じように区分けがあるんですけど、何度も膨大な書類を作り直して最終的に運輸局に新たな項目「アート船」というのを作ってもらってようやく実施できました。

 もうひとつ、千島土地さんが所有されている、オランダのアーティスト、フロレンティン・ホフマンの作品「ラバーダック」の設置などをさせていただいています。

 あと、今年スタートしようとしているプロジェクトに、江戸時代に八軒屋浜から京都まで運航していた「三十石舟」を復活させようというもので、枚方から京都まで水深が非常に浅いのですが、そこを走れる船をつくりました。今年から運航を開始すべく頑張っているところです。


ご来光カフェ―この時しか見られない夜明け


大阪で「観光化されていないもうひとつの旅」を探し発信していくことを目的に活動するNPO法人もうひとつの旅クラブのユニークな活動の一つが、中之島の南側からのご来光を臨む1年に1週間だけの「ご来光カフェ」です。

岩田 もうひとつの旅クラブで、ご来光カフェの担当理事をやっています。ご来光カフェは、今年で14年目を迎えます。10月1日から8日の8日間、朝5時半から8時半まで、アクアライナーの乗り場である淀屋橋港の桟橋を、大阪水上バスさんにお借りして、カフェにしつらえてやっています。

1年に1度だけのご来光カフェ

 ご来光カフェは2006年に、私たちメンバーが昼は仕事で朝か夜しか活動できないので、あるとき朝早くに水辺を散策してみようということになって朝4時に淀屋橋に集合して歩いたら、ちょうど朝日がでてくる景色に遭遇したことをきっかけに生まれました。たまたま中之島の川が東西に流れていたので、東に開けていて、その先に生駒の山が見えて、ビルとビルの間に朝日が昇ってくる。10月1日から8日前後にそれが見える桟橋がたまたまあった。

 最初の頃は数人の参加でしたが、今は最も多いときで200名近くのお客さんが来られます。コーヒーは200杯くらい手で入れて、食べ物もスタッフの手作りなので大変です。

 営業は3時間だけで、皆ご来光の時間に向かってくるので、30分ですべてのお客さんをさばかないといけないんです。歩道までいっぱいお客さんが来ます。スタッフは朝4時に来て毎日テーブルのセッティングから始めます。日の出の30分前にブルーアワーというのがあって、スタッフだけが見るこの景色もすごくきれいです。だんだん日があがってくると気分も盛り上がってくるし、雲があると朝焼けだったり、毎日違う景色が見れます。10周年のときには桟橋から日の出を見るクルーズ船も出しました。

 私たちも朝の活動がちょうどよかった。自然の地形から時間や場所、人、全て偶然が重なって生まれた企画です。 


撮影:衣笠名津美


島袋 皆さん、ありがとうございました。すでに色々なことをされているので、僕はどうしたもんだろうと困っているところです(笑)。

吉田 スワンボートも、道頓堀でスワンボートレースをされたりしていますね。

島袋 今回のスワンボートでの実験も、北浜テラスのすぐそばに橋があるんですが、あえて時間をかけてスワンボートでいくという。まわり路が近道とかありますよね。スワンボートを持ってくるときも大正区から道頓堀通ってきましたけど、やっぱり歩いてる時の景色と全く違う。意外と早いのかもしれないし。川を使う魅力はやっぱり普段と全然違う街に見えるところですよね。

吉田 このときはちょうど満潮で川の流れがないときで、大阪の川って干満があって、海との高低差がないので、満潮に向かうときは逆流します。そういうときは流れが早いですね。船でも流されるので、今後スワンボートをするなら考えてやっていかないとですね。

島袋 中田さんのお話の中で、淀川産のうなぎを使ってる 淀川で食べられるものがあるんですかね。

出崎 大阪湾の下の方でしじみとかですね。中之島の堂島川でもうなぎがとれるみたいです。鳥では川鵜、鴨、ユリカモメもいますね。

島袋 ご来光カフェは私としてはすごく悔しいですね。あまり作りこまずに視点をずらすだけで新しく見えるという。それを探す仕事がアーティストの仕事なので。そういう意味でもご来光カフェ、いいですよね。

岩田 ほんとうにたまたまが重なりました。あんな風に朝日が見えるのは、淀屋橋しかほとんどないくらいです。

島袋 すでにあるけど、意外と知られてないじゃないですか。それをもっと知ってほしい。ご来光カフェはこれ以上宣伝できないですね(笑)。


今回のトークは、島袋さんが、中之島周辺ではすでに色々な水辺の活動がされているので、それを島袋さん自身とともに色々な人にもっと知ってほしい、という思いがあり開催されました。それぞれがアイデアを練りながら、時間から関わり方からすごく多彩な川辺の試み成されており、水都・大阪と言いますが、それが日常化されていることを改めて感じるトークでした。島袋さんのリサーチは続いていきます。

[文:アートエリアB1事務局]