ラボカフェスペシャル featuring クリエイティブ・アイランド・ラボ 中之島 07
“中之島MICE”の可能性をめぐって

日時:2019年1月25日[金] 19:00ー21:00 
会場:アートエリアB1
定員:30名程度(当日先着順・入退場自由・参加無料)
ゲスト:出川哲朗(大阪市立東洋陶磁美術館 館長)、本田塁五(コンラッド大阪 営業部副部長)、松室淳一郎(株式会社大阪国際会議場営業部誘致開発課 課長補佐)
カフェマスター:木ノ下智恵子(大阪大学共創機構社学共創本部 准教授/アートエリアB1運営委員)


Meeting(学術会議)、Incentive(研修旅行)、Convention(国際会議)、Exhibition/Event(展示会)の頭文字をつなげた「MICE/マイス」は、近年の都市観光産業のなかで大きな注目を集める概念。会議場、美術館、ホテルなどの各施設が連携をとり、各都市の魅力を総合的に伝える試みは、ここ中之島でも進んでいます。

 第7回目となるクリエイティブ・アイランド・ラボでは、「中之島MICE」の可能性を模索する試みとして、出川哲朗さん(大阪市立東洋陶磁美術館 館長)、松室淳一郎さん(株式会社大阪国際会議場 営業部 誘致開発課 課長補佐)、本田塁五さん(コンラッド大阪 営業部副部長)を招いてのプレゼンテーション&シンポジウムを行いました。


一番手は、「グランキューブ大阪」こと大阪府立国際会議場に勤める松室さん。近年のインバウンド(日本への外国人観光客、またはその旅行)状況を概括し、展望や課題を示しながら、松室さんはグランキューブについて説明します。

 2000年4月にオープンしたグランキューブは、当時、有力な国際会議施設のない大阪の状況を改善するために大阪府・大阪市・経済界の協力で建設・運営されてきました。平地に複数の会議施設が並ぶ一般的な会議場に対して、グランキューブは一つの建物の各フロアーに施設が積み重なった特殊な構造を持ち、一つの施設内で上下に移動するだけで済む機動性をメリットとしています。オープン後には世界観光機関総会(2001年)、G8サミット財務大臣会合(2008年)を開催するなどし、2018年には64件の国際会議を誘致してきました。今後は、食、伝統文化などの大阪の特長とリンクしながら、さらなる誘致を進めていきたいと松室さんは話します。

 続いて登壇したのはコンラッド大阪の本田さんです。2017年9月にオープンしたばかりの同ホテルは、中之島フェスティバルタワーWESTの上階に位置する、空のホテル。最上階にあるロビーからは、大阪の南側を一望できます。164室の客席は、同規模のホテルとしてはコンパクトですが、ラグジュアリーな設備と接客を行なっているほか、館内には名和晃平による巨大なパブリックアートなども常設しています。本田さんは、宿泊目的でなくともぜひ訪ねてほしいと強調していました。

 最後は東洋陶磁美術館の出川さん。世界屈指の中国陶磁コレクションなどで知られる同館には、すでに多くの外国人観光客が訪れているそうで、韓国、中国、フランスを中心に入館者の3割が外国人だと言います。近年は、海外の有名コレクターがお忍びで来館したり、フランスのミシュランガイドでも星2つを獲得するなど、注目度が増しているとのことでした。


3名のプレゼンテーションを終え、後半はディスカッションに移りました。

出川 中之島には歴史と文化の蓄積があり、美味しい食べ物があり、いろんな美術品を見ることができます。これを国レベルの財産として考えていきたい。同時に中之島は民間の力が牽引してきたことも大きく、川に挟まれた島であることから生じる求心力を持っていると思います。

松室 中之島単体で大規模な国際会議を誘致しようとすると、島の外の堂島リバーフォーラムやABCホールなどの力を借りる機会が多く、単体では「足らず」な印象がこれまではありました。ですが、今日のプレゼンを聞くと、じつは自分たちの知らなかった中之島の力があることがわかりました。

本田 もともとコンラッド大阪自体が、EASTとWESTの2つの高層タワーを合わせて「フェスティバルシティ」と捉える構想を持っていました。ですが、みなさんの話を伺うなかで、中之島全体での魅力を再認識できた気がします。土地・立地にはそれぞれの長所と短所があります。立地のよい梅田はショッピングやグルメがメインですから、中之島は文化・情報の発信地として捉えることもできるでしょう。MICEを展開していくうえでの、新しい切り口が見つかった気がします。

松室 海外からやってくる皆さんは、積極的にSNSで発信していますよね。そういった方たちのサポートを、組織としてではなく、個人としてやっていこうというのは、いつも考えていることです。いわば、一人コンシェルジュ(笑)。草の根的な活動で、ファンを増やしていければいいな、と。

本田 ぜひ、うちのコンシェルジュとも連携してください(笑)。仕事柄海外によく行くのですが、大阪の認識はとても高いです。中東の人も、「なんば」や「たこやき」を知っていて驚きました。

出川 今年はG20がありますね(シンポジウム開催は2019年1月25日)。これはまさに巨大なMICEで、マスコミだけで6000人、サミット関係者が3万人以上来ると聞いています。現状の中之島で、これだけの人数を受け入れることは可能でしょうか?

松室 関係者だけで手一杯で、一般の観光客の方が泊まるのはなかなか厳しいと聞いています。いっぽうで、中之島は橋と地下鉄で大半の行き来が行われていますから、警備などには適していると聞きました。そういったところも、特長と言える気がしますね。

出川 特長という点では、中之島周辺は近代建築の名作が非常に多い。それも観光誘致の目玉になると面白いのでは。

本田 じつはフェスティバルタワーも隠れた現代の名建築なんです。建築好きのお客様がいらっしゃることも多いんですよ。

出川 そういった現代のものが目玉になってくることも期待したいです。やはり、若い人が見て感動するような場所でも中之島はあってほしいですから。

本田 土日にご家族で楽しめるようなキッズプログラムも今後ますます充実していきたいと考えています。例えばマルシェや移動遊園地、あるいは縁日とか楽しそうですよね。

松室 個人と場所のつながりを、より深めていく、ということが大切なのだと思います。例えばグランキューブは大阪府の吹奏楽コンクールの会場に使っていただいていますが、吹奏楽経験者、ファンにとっては、ここが聖地(メッカ)になるかもしれない。音楽に限らず、美術、陶磁、食……それぞれを愛する人々にとっての個人的なメッカが積み重なる場所として、中之島が認知される未来は、素敵だなと思います。